周期表の右端近くの第17族、その中で最も原子量が小さいフッ素を使った代表的な樹脂PTFEに関する特許を読みました。
1.フッ素
第17族原子の最外殻電子配置はs2p5であり、単体原子は3つの非共有電子対+1本の結合を作ります。
フッ素は水素原子に近い非常に小さいサイズの原子であり、最外殻電子が原子核に近く、引力の影響を大きく受けます。
F-F結合は距離が短く、非共有電子対を持つ左右両方の原子の反発力が大きく結合が切れやすくなります(原子間結合力が小さい=反応性が高い)。
フッ素はあらゆる元素の中で電気陰性度が最も大きく、他の原子から電子を奪って-1価になろうとします(酸化力が強い)。
非共有電子対をもたない相手との化合物では、結合距離が短く、電気陰性度が高いために非常に強固な結合となります(結合力が大きい)。
スペースの関係で多数配置が可能となるとともに、分極しにくいフッ素は他の分子との反応性は低くなります(分子間の相互作用が弱い)。
2.フッ素樹脂
フッ素樹脂では、骨格となる炭素鎖を、サイズが小さく他の分子との相互作用が極めて弱いフッ素原子が周囲を隙間なく覆っています。フッ素が水素よりもサイズが大きいため、炭素鎖が曲がりにくく、高分子同士の絡み合いは少なくなります。C-F結合は非常に安定な結合です。
フッ素樹脂は耐熱性・耐薬品性・摩擦特性・絶縁性に優れた特性を有し、電子材料、建築材料、調理用品のコーティング、繊維、プラスチックの添加剤など様々な用途で活用されています。
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)は工業化以来70年以上の歴史を持ち、幅広い用途でフッ素樹脂需要の60-70%を占めています。
3.特許:ポリテトラフルオロエチレン分散液
ポリテトラフルオロエチレン水性分散液およびその製品(旭硝子)
本特許でのPTFE樹脂は高重合度のポリマーが容易に得られる乳化重合法で製造されます。乳化重合では水などの媒体と、媒体に難溶なモノマーと乳化剤を混合し、そこに重合開始剤を加えて水性分散液(エマルション)を得ます。
従来の乳化重合法では含フッ化乳化剤としてペロフルオロオクタン酸アンモニウム(APFO)が使用されてきましたが、地球規模での環境残留性や生体蓄積性が明らかとなり、欧州REACH規則では高懸念物質(SVHC)に指定されました(2020年7月4日以降は制限物質としてより厳しく管理されています)。
特許の技術課題はこのAPFOを実質的に含まない乳化剤を使用して優れた特性のPTFE水性分散液およびPTFE製品を提供することです。
請求項の1から5まではPTFE水性分散液、6はPTFE製品が対象となっており、PTFE水性分散液中のPTFE微粒子の質量%(PTFE水溶液質量比)、平均粒子が記載されています。また含フッ化乳化剤の一般式(1)およびEEA(エチレン・アクリル酸エチル共重合体、一般式1を特定したもの)、非イオン系界面活性剤の一般式(2)(3)(4)も記載されています。
PTFEの定量・定性分析にはレーザー錯乱法粒子径分布計(平均粒子)、示差走査熱量計(平均分子量)、ガラス電極法(pH)、B型粘度計(粘度)、デュ・ヌイ法(表面張力)、ナイロンメッシュフィルター(機械的安定性)、ガラスろ紙(含浸テスト)、HPCL(乳化剤濃度)など様々な手法・分析機器が使用されています。
参考例は含フッ化乳化剤EEAの製造(1)と1-オクタノール/水分配係数(logPOW)測定(2)について記載されており、高濃縮性ではない(生体蓄積性が高くない)とされるlogPOW値3.5未満がHPCL測定結果で確認されています。
例(1)~(7)では複数の乳化重合プロセスで得たPTFE水性分散液の機械的安定性、浸透性、コーティング外観が確認され、その結果が表2、3にまとめられています。
4.まとめ
岡野の化学で学んだハロゲン、フッ素樹脂から特許へと発展させるために特許に取り組みました。明細書の細部に渡るまで読み込むためにはラジカル重合、エマルション、界面活性剤など関連分野の復習、明細書に出てくる化合物の構造式・特徴の確認、各種分析機器と分析手法についての関連情報チェックなどが必要でした。
現在の自分の実力では短時間で読める特許ではありませんでしたが、学習を積み重ねてレベルアップしていきたいと思います。
コメントを残す