回路図を読む②

入力部と出力部間を絶縁したアイソレーションアンプに関する明細書を読みました。

1.アイソレーションアンプ

アイソレーションアンプは入力部と出力部を絶縁することで入出力間に加わった大きな電圧に耐えることのできる安全性の高い増幅器です。

絶縁を介した信号の伝達のために電磁界結合(キャパシタを使った電界結合、トランスを使った電磁結合)などの回路方式を採用します。

電磁界結合による信号の伝送では、入力信号と出力信号の時間軸方向のずれ(位相ずれ)が発生します。

2.明細書(特開2021-042996 電子回路、電流計測装置)

発明が解決しようとする課題は、アイソレーションアンプの位相ずれの影響を低減する電子回路の提供です。

発明の詳細な説明は、図1から図19までの図面に基づく実施形態の説明で詳述されます。
図2が最も重要な電子回路の構成図です。

・入力信号を第1周波数変換器を介して高調波信号に変換する
・高調波信号を電磁界結合により介して伝達する(絶縁する)・・・位相ずれの発生
・位相ずれ修正のためのクロック信号を第2周波数変換器へ送る
・高調波信号の位相ずれを第2周波数変換器で修正する
・増幅部で増幅と残存高周波成分を除去して出力する

図3以下で電子回路内の構成要素の構成や動作が説明されます。

図3:周波数変換器(4つのNMOSトランジスタで構成されるミキサ)
図4:遅延器(カレントミラー回路とインバーターの組み合わせ)
図5:増幅部(ローパスフィルターとオペアンプ)

図6の制御部は、一定間隔で遅延量の修正を行う動作(calibration mode)に入ります。信号はスイッチにより電圧の振幅幅を検出する検出器へ流れるように切り替えられ、予め設定してある遅延量の組み合わせで位相連れの修正を繰り返し、最適な設定値を選択して遅延量修正動作を終了しnormal modeへ戻ります。

図7から9は制御部が遅延量決定動作の開始するタイミング、遅延量設定値の決定フロー、予め設定された遅延量と測定値との電圧の差を表したグラフなど、回路図以外の図面です。

図10:変形例3(電磁界結合部をキャパシタからトランスへ変更)

図11は遅延量修正のクロック信号の出力先を第2周波数変換器ではなく、第1周波数変換器へと変更したもので(変形例4)、この明細書の重要な構成の一つです。

請求項の1と2はこのクロック信号の出力先を変えたものについて記載されており、同じ文章中の「第1」と「第2」が数箇所変更されているもので、図面を読み取っていなければ内容が把握できません。

【請求項1】
第1クロック信号を生成する生成部と、
前記第1クロック信号の位相を遅延させた第2クロック信号を出力する遅延器と、
前記第1クロック信号を電磁界結合によって伝送する第1電磁界結合部と、
前記第1電磁界結合部から伝送された前記第1クロック信号により駆動し、第1入力信号を
前記第1クロック信号に対応する周波数の第1信号に変換する第1周波数変換器と、
前記第1信号を電磁界結合によって伝送する第2電磁界結合部と、
前記第2クロック信号を用いて、前記第2電磁界結合部から伝送された前記第1信号を前記
第1入力信号に対応する周波数の第2信号に変換する第2周波数変換器と、
前記第2信号の振幅に基づいて、前記遅延器の遅延量を決定する制御回路と、
前記第2信号を出力する出力部と、
を備えた、
電子回路。

【請求項2】
第1クロック信号を生成する生成部と、
前記第1クロック信号の位相を遅延させた第2クロック信号を出力する遅延器と、
前記第2クロック信号を電磁界結合によって伝送する第1電磁界結合部と、
前記第1電磁界結合部から伝送された前記第2クロック信号により駆動し、第1入力信号を
前記第2クロック信号に対応する周波数の第1信号に変換する第1周波数変換器と、
前記第1信号を電磁界結合によって伝送する第2電磁界結合部と、
前記第1クロック信号を用いて、前記第2電磁界結合部から伝送された前記第1信号を前記
第1入力信号に対応する周波数の第2信号に変換する第2周波数変換器と、
前記第2信号の振幅に基づいて、前記遅延器の遅延量を決定する制御回路と、
前記第2信号を出力する出力部と、
を備えた、
電子回路。

4.まとめ

回路図を実施形態の説明に沿ってひとつづつ読み解いていきました。回路を構成する素子の役割を理解しないと回路の動作の説明についていけないので、企業サイトやYouTube動画で再確認をしながら時間をかけて読み込みました。

明細書の詳細な説明(実施例の説明)、図面、請求項が密接に連携しており、異なった表現方法で同じ内容を表しています。請求項を読みながら図面が思い描けるくらいの習熟が必要だと感じました。

まだまだ電気関係の知識は補充する必要がありますが、もう一つ英文の明細書を読んでから別の分野の明細書に取り組む予定です。

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IT機器メーカーの会社員です(営業・マーケティング職)。 退職したあとプロの特許翻訳者としてデビューするために勉強をはじめました。  2020年10月よりレバレッジ特許翻訳講座を受講しています(第10期生)。 理科の基礎知識から積み上げて、最終的には信頼される翻訳者になることが目標です。